<米国投資情報から見るウラン(鉱山)業界>

当会は、先に87日付トピックス欄において、世界の原子力ムラのトップに君臨すると言ってよい、GEの最高指導者であるジェフリー・イメルトが原子力発電所の将来性を否定する旨の発言をしたことがフィナンシャルタイムズに掲載されたことをお伝えしました。


こういったイメルトの見方に対して、原子力発電に関連する他の産業の者は、原子力発電の将来性を合理的にどのように見ているのか、コメントされているものはないのかを当会は探していたのですが、意外なところから大変興味深い情報を取得することができましたので、皆様にご紹介したいと思います。


その情報とは、米国で個人投資家向けに書かれた無料投資情報です。この投資情報ではウラン(鉱山)業界の動向、特殊性が記載され、当該業界のトップ企業であるカナダのカメコ社に投資を勧めるものなのですが、この投資情報(以下記事といいます)では、原子力発電所を根底から、支えるといえるウラン(鉱山)業界の内容について、簡潔に纏められており、今、世界の原子力ムラが次に何をねらっているのかを知るうえで、とても貴重な記事だと思いますので、紹介をさせていただきたいと思います。


 当該記事とは以下の記事なのですが、まずは日本語による大意を掲載させていただきます。

 

http://seekingalpha.com/article/769211-global-conditions-are-conspiring-for-a-swift-upswing-in-uranium-prices?source=yahoo

 

 

 

<ウラン価額上昇のためのはかりごと>  

2011年中国は、826億キロワット/時の電気を原子力発電から作り出した。2011年米国ではその10%分しか原子力発電では電気は作られていない。中国の飽くことを知らない電力消費事情は、原子力ルネッサンスを牽引している。しかし中国でさえ、まだ原子力発電所の発電量は、総発電量の2%未満だ。よって中国の10%近い年間経済成長率を考慮すれば、当然この発電量率の数値は増加するであろう。

中国本土では、現在、26基の原子力発電所が建設中である。またさらに51基が何らかの形で計画中である。福島第1原発の事故の前、北京政府は、中国の原子力発電量を11.9ギガワット(注:1ギガワットは10億ワット)から、80ギガワットに増加させることを計画中であった。

しかしながら、事故の後、北京政府は新たな原子力発電所の認可に懐疑的となり、建設中のものも含め現在稼動中のものも包括的な安全確認作業を実行し、ほぼ終了した。建設現場においては、多くの設備に対して検査がなされた。2010年6月中国国務院は、2015年までの原子力発電所の安全基準を承認した。最近の原子炉は、古いモデルの多くの問題を緊急炉心冷却装置を含め、改善はしているが、しかしながらこれらの基準では、致命的な問題に対して備えがなされているとはいえない。中国政府は、海岸部の原子力発電所の津波のための安全設備の増強を志向している。

中国政府は原子力発電の発電量目標を変更していないけれども、一部のメディアでは、80ギガワットから60ギガワットと70ギガワットの間に目標を変更するかもしれないといわれている。投資家諸氏は、中国がこの目標を超えるための長い歴史があったことを忘れるべきではないであろう。実際、現在計画中のものも含め、すべての原子力発電所が稼動すれば、中国大陸の原子力発電量は年間200ギガワットを優に超えるものになるといえる。電力需要の急増に直面し、解決策を原子力発電に求めている新興国は中国だけではない。

インドでは、先般新たな原子力発電所が認可されたし、現在7つの発電所が建設中である。さらに15の原子力発電所が計画中である。 ロシアのプーチン大統領は、原子力発電の国内における発電割合を15%から20%に増加させることを発表している。ロシアは、現在10の原子力発電用原子炉を建設中であり、17の原子力発電用原子炉の建設が計画中である。 原子力の成長性は、福島第1原発の事故以降、国際的には軽微ながら悪化しているといえる。 日本とドイツを除いて、原子力の将来性は、フランスや米国その他の国々において変化はない。

中国やインドのような新興国においても、原子力発電の増設は継続している。 IAEAによれば、世界の原子力発電の発電量は2020年には375ギガワットから、429ギガワットに増大し、2030年には501ギガワットになると予想する。 多くの原子力発電所のプロジェクトの実現により、2020年までに世界の年間ウラン使用量は、2012年の年間使用量、68,000メタリックトン(注:1メタリックトンは1,000キログラム)から増加し、年間10万メタリックトンを超えるだろう。

もっとも2011年においては、世界のウラン鉱山の年間生産量は58,000メタリックトンであり、世界の需要から見ると足りないのである。歴史的に見て、ウランは、鉱山からの採鉱分だけではなく、政府による備蓄の売却、ロシアの核弾頭処理の際に出てきたものが、需給ギャツプを埋めているといえる。しかし、ロシア政府は、核弾頭処理のプログラムである「メガトンからメガワットへプログラム」を2013年に終了させるつもりである。 このことにより、ウランの再使用市場での供給の減少は、ウラン鉱山からの採鉱によりおぎなわれなければならないことになる。 けれども世界的に見てウランは豊富にある。但し、生産コストが高いのが障害となっている。カナダのカメコ社は、マクアーサーリバーウラニウム鉱山を保有するのだが、この鉱山は、ウランの品位が高く、現在の世界のウランのスポット価額である1ポンド50ドルでも十分に儲けが出ている。

もっとも、この鉱山は世界のウラン生産の15%を占め、例外的ものといえる。 現在のウラン価額の環境下では、多くの開発中のウラン鉱山が、割に合わず、何年も採掘をしない経営計画を立てている。筆者が、かつて述べたように、ウラン価額が少なくとも1ポンド80ドルを超えることがない限り、需要増の期待に基づく、ウラン鉱石の増産はあり得ないだろう。 中国政府は、ウラン価額が底値と見るとウランの備蓄を増やす政策を取る。

投資家は、この中国政府の投資姿勢を見習うべきであろう。 カメコ社への投資は、依然として、ウラン価額の回復を見越せば、合理的な投資といえよう。加えて同社は、世界的な低コストウラン鉱山である、マクアーサーレイクウラン鉱山を保有しているし、また、長く採鉱が遅れていた、シガーレイク地区でも採鉱が可能になる期待が高まっている。カメコ社は本年、8,165メタリックトンのウラン鉱石を採掘できると会社側では述べている。 カメコ社の採掘されるウラン鉱石のうち40%が、長期契約として供給先が決まっており、すでに以前の市場価額に基づき売却がされている。 同社の長期売り渡し契約は、ウラン市場の価額が弱含みになった際、ウラン市場の価額変動を和らげる役目を担っている。

 

掲載記事対するコメント>

 

(米国における投資情報)

 

米国では、個人投資家の層が日本とは、比較にならないくらい厚く、このように無料でアクセスできる記事であっても、その内容に関し、一面から見ると、とても質が高いものが良く存在します。個人投資家の質を上げ、正しく産業や企業を評価し、産業間・企業間の競争の原理を株式マーケットでも加速させるという資本主義の目的にかなう情報アクセスのツールが発達しているわけであり、米国の強さを実感するところがある部分です。

 

(情報の読み方)

 

ところで、この記事をお読みいただいてわかることは、世界の原子力ムラが今、期待していることは、新興国、とくに中国、インドにおける原子力発電所の増設ということであることが良くおわかりになることと思われます。

 

この記事では、中国の経済成長を引き合いに出し、原子力発電所の増設は、必至であるとの方向性をかもしだしているわけですが、こういった記事に限らず、情報を一般的に読む場合、当該情報において、どのような情報が隠されたのかという視点で、情報を読み解くことが大切だと欧米では言われるわけです。つまり隠された情報こそが、相手が一番知られたくない情報なのであり、ある意味相手の弱点なのです。欧米の知識層は、こういったことを、メディアリテラシーとして、若いころから学んでいますので、政府の意図を容易にメディアの報道から推測し、扇動には、乗りにくい国民性が出来上がっていくといえます。

 

(何を情報として隠しているか)


 当会のかつてのトピックス記事をお読みいただいている方には、もうおわかりのことと思いますが、掲載記事においては、原子力発電所の安全施設設置に対する莫大なコストの発生という視点が全く抜け落ちたうえで、仮説が展開されているわけです(つまりこの情報が隠されているわけです)。

 

(ミッドウェー海戦との事例比較)

 

これはちょうどミッドウェー海戦(昭和17年)で、日本の連合艦隊が空母4隻を一挙に失った事実に対して、そのことを日本海軍が徹底的に秘匿した(驚くべきことに、近年明らかになった事実では、当時の最高指導者といえる東条英機首相でさえ、このことを終戦時まで知らなかったものです)ことで、逆に米軍は、空母4隻を失ったことが、日本海軍にとっては、極めて致命的なものであったとの情報分析を行い(米軍は空母4隻沈没の事実を現場からの報告で確認しています)、以後、艦隊決戦を避け、空母中心の洋上航空戦に戦いの中心をシフトさせ、日本軍を早期に敗戦に追い込んでいった手法同様、今の原子力ムラの致命的弱点が、「(原子力発電所における)安全施設設置に対する莫大なコストの発生」にあり、ここを明らかにされることが、原子力ムラにとって、もっとも致命的であることを掲載記事から、容易に読み解くことが出来ると当会としては考える次第です。

 

(中国でもシフトは始まっている)


 実は先日中国の電力事情を視察してきた人と当会は、意見交換をする機会を持ちましたが、中国のエネルギー業界においても、安全設備のコスト面から見ても原子力から、代替エネルギーへのシフトが重要となってきているとのことであり、従来のような原子力発電所一辺倒の政策を中国政府も取りずらくなってきていることが明らかになってきています。

 

(軍事産業としてのウラン(鉱山)業界)

 

さて掲載記事の中で、もうひとつ注目していただきたいことは、このウラン(鉱山)業界というものが、いかに軍事産業と結びついているのかということを証明しているのが、ロシアの核弾頭処理から出てくるウランがウラン市場の中で重要な地位を占めると言うくだりです。ちなみにウラン(鉱山)業界では、この種のウランを解体核と呼びますが、この背景には、1994年から開始された旧ソ連の核弾頭を解体し、当該ウランを米国の原子力発電所で再利用するという米露間の「メガトンからメガワットへプロジェクト」と呼ばれるものがあるわけです。このプロジェクトの存在は、日本ではほとんど知られておりませんが、これが米国の原子力発電所の発電に必要とされるウランの約半分を担っているという事実があります。米国の発電量のうち原子力発電は約20%を占めるものですので、いかに多くのウランがこのプロジェクトから供給されているかが推測できましょう。

ちなみにこのプロジェクトでは、ロシアの多数の核弾頭を解体するとともに、ロシアの原子力産業労働者を多数雇用することに成功しており、ロシアからの核拡散リスクの回避にも大きな成果があったと言われています。


(ウラン(鉱山)業界の特殊性)

 

さらに、もうひとつ本掲載記事からの事情として押さえておきたいことは、ウラン(鉱山)業界の特殊構造といえます。ウラン鉱山の実態は、映画「イエローケーキ」で赤裸々に明かされることになりましたが、ウランを採掘するということは、イコール放射能を採掘する、言うなれば放射能を地上に導き出すに等しいことなのであり、そのため、ウラン鉱山では、採掘に従事する労働者のウラン鉱石から発生するラドンガスによる被曝、掘り出した鉱石の鉱滓及び残土による環境中での被曝が起こるわけです。ちなみに国連科学委員会は、原子力開発における人類最大の被曝源は、原子力発電所でも、再処理工場でも、高レベル廃棄物でもなく、ウラン鉱山から出る鉱滓にあると指摘しています。この事実をもってしても、ウラン鉱山の危険性が極めて環境に対して大きいことがご理解いただけると思います。

 

(ウラン価額事情)

 

ちなみに世界のウラン市場は、ウラン鉱山からの採鉱からの不足を先述した解体核や再濃縮により、補っているものであり、そのため掲載記事にもあったように「メガトンからメガワットへプロジェクト」が2013年に終了することにより、解体核が将来的に市場に出なくなること及び中国を中心とするアジアの原子力発電所の増設という事実により、世界的なウランのスポット価額は、福島第1原発事故の前の201011月には1ポンド(約453.6グラム)当たり60ドルまで急騰していたものでしたが、事故後は50ドルに急落し、現在もその価額を中心に推移しています。

 

(昨今の価額の推移については、こちらのアドレスをご参照ください。http://ecodb.net/pcp/imf_usd_puran.html#index01

 

なお、鉱山会社からのウラン鉱石の売渡の契約は、その90%近くが、510年の長期契約になっているものであり、スポット取引はマイナーなものといえます。

 

(世界のウラン鉱山とその将来)

 

世界のウラン鉱山は、中小鉱山が主であり、掲載記事にあるような、カメコ社のような会社は、極めて例外的な会社といえるものです。欧米の鉱山会社は、たとえ上場していたとしても、鉱石の掘り出し価額がペイしない場合は、鉱山自体を休眠化させることが往々にしてあるものですので、掲載記事にあるように1ポンド80ドル以上とならないとこれらの多くの鉱山に稼動意欲が出ない状況にあるということは、ウラン(鉱山)業界自体かなり収益上厳しい状況になっているといえます。ただ、鉱山会社からのウラン鉱石の売渡の契約は、その90%近くが、510年の長期契約になっているものですので(この点でカメコ社の長期契約率は低いといえます。これは同社の採鉱コストが極めて低いものであり、スポット市場で容易に売却できる自信の表れと読むことができましょう)、スポット価額の低迷がそのまま直ちに、業界全体の窮状に繋がるかというとそうともいえない部分もあるわけです。


いずれにしても、これらの業界構造を踏まえれば、1ポンド50ドル近辺または未満のスポット価額が今後も4年以上にわたり、継続するようであれば、世界のウラン(鉱山)業界自体、政府からの補助金なくして業界は、成り立たなくなると思われます。


しかしながら、このモラトリアムの時間は、まさに福島第1原発からの被災地で被曝による病気や障害が顕在化するだろうとする時期と符合しているものです。だとすれば、世界のウラン(鉱山)業界の将来は、今後はまさしく、福島第1原発の被災地域の人々の健康の行方にかかっていると言っても言い過ぎではないように思われます。

(平成24817日 事務局記)