<ニューヨーク・タイムズが伝える福島の海の汚染状況と東京電力の開き直り>

1025日 米国の科学誌「サイエンス」に日本の東北各地で水揚げされた魚約8,500匹の放射性セシウム濃度に関する日本政府の記録を調べた米国ウッズ・ホール海洋学研究所のケン・オ-・ブッセラー氏の報告が掲載されました。

この報告については、米国において高い注目を集めたようであり、ニューヨーク タイムズ他、AP通信においても、配信がなされています。

 

「ニューヨーク タイムズ」

http://www.nytimes.com/2012/10/26/world/asia/fish-off-fukushima-japan-show-elevated-levels-of-cesium.html?_r=0


「AP通信」

http://www.foxnews.com/world/2012/10/25/cesium-in-fish-off-fukushima-suggests-continued-contamination-from-seabed-or/

 

「CNN」

http://www.cnn.co.jp/world/35023610.html

 

そして、さらにその後この問題は、世界的にも海洋学者にとって大きな問題となっているようであり、1114日には「NATURE」誌において、以下のような報道がなされるに至っています。

 

「NATURE」

http://www.nature.com/news/ocean-still-suffering-from-fukushima-fallout-1.11823


当会としては、これらのうちニューヨーク タイムズの記事の大意を以下和訳して掲載するとともに、この福島沖の放射性物質による海洋汚染の状況に関して、以上の報道等を踏まえた当会のコメントを本トピックスでは述べてみたいと思います。

 

(大意)
<日本の福島沖の魚からは依然として高い値の放射性セシウムが検出される>

日本の福島沖の魚からは、未だ高いレベルのセシウムが検出されるが、これは昨年の福島第1原発の事故により、放射性物質が海底に蓄積され今後何十年にも亘り、海洋生物を汚染するということを意味する。

 10月19日に発刊された「サイエンス」誌において、放射性物質の食品への混入への対応と地域の漁業の建て直しに挑戦する日本の姿が取り上げられた。

 福島第1原発の事故の後、18ヶ月以上が経過したが、日本では未だ福島沖で取れた魚36種類の販売が禁止されており、これに応じて大規模な漁船団の出漁も福島では控えられている。このことは地域の主要産業の存在の否定を意味する。

 でも、何人かの地域の漁民たちは、漁を再開しようと試みている。7月以来100人ほどの漁民が政府の放射性物質の含有テストをパスした蛸のような種類の魚介類に関して、小規模ながらも商業ベースの漁を再開した。福島の海は近海も遠海も海水の放射性物質による 汚染は通常レベルに近づいてきている。ウッドホール海洋研究所の海洋化学のエキスパートであるケン・オー・ブッセラー氏は、福島第1原発の事故から1年経った海洋生物の汚染を分析したわけであるが、福島沖で捕獲された魚介類の約40%が昨年の時点で食べられるセシウムの含有規制値を超えていたと言う。

 ケン・オー・ブッセラー氏が「サイエンス」誌に著した内容によれば、セシウムは、海洋生物の体内には、海水中では長くとどまることはないと言う。高いレベルのセシウムが測定される理由は、特に底魚からであり、これは、海底のセシウムに常に汚染され続けているから生ずると言及している。

  ケン・オー・ブッセラー氏は「多くの魚介類において1年前に比べてセシウム134、セシウム137が多く検出されることは、セシウムが未だ食物連鎖の過程の中に存在し続けているということを暗示するものといえる。」と言う。

 セシウム137の半減期は30年である。海底の沈殿物は今後何十年も汚染されたままだろう。

 日本の魚介類の放射物質の含有テストを行っている日本の水産庁によれば、ケン・オー・ブッセラー氏の主張には合理性があると認める。

 水産庁の関係者が言うには、「福島沖の海に放射性物質が降下した初期の段階では、海面近くに生息する魚から高い放射性物質を検出した。しかしながら、今は、放射性物質は海底に沈んだと思われる。」と言う。

 しかしながら、この関係者は、「ケン・オー・ブッセラー氏の懸念はまず心配ないと思う。」とする。「なぜならば、セシウムは、海底に付着すると考えているからである。」とする。  またこの関係者は、日本政府は海洋生物のテストを積極的に継続するし、漁の禁止は、放射性物質の含有が、出荷可能になるまで、継続されるだろうとする。

 環境化学のエキスパートである東京工業大学の吉田尚弘氏は、ケン・オー・ブッセラー氏の多くの見解に同意するとする。もっとも日本の海洋のどのくらいの広範囲に汚染が拡大するのか、またそれがどのくらいの期間、その地域で海洋生物に影響を与えるのかは結論を出すには時期尚早であるとする。 海洋の流れや沈殿物に関するより詳しい調査が必要であるし、放射性物質による汚染の魚種による影響の相違についても調査が必要であるとする。 福島第1原発から放出された放射性物質の5分の4は、海に入ったと考えられている。

 すなわち、事故による原子炉の冷却水とともに海洋に流れ込んだものや爆発により沖合いに降下したものである。 海洋は、迅速に潮流により放射性物質を拡散させるため、現在福島沖の海水の放射性物質の汚染レベルは、通常の数値に近づいている。

 しかしながら、福島沖で捕獲される魚からは、高いセシウム数値が検出されており、それは、人のガンに罹患する確率を高めている。 ちょうど2ヶ月前福島近海で取れた2匹のアイナメから、1キログラム当たり25,000ベクレルを超えるセシウムが検出された。福島第1原発の事故以来、この数値は魚から検出された最高の数値であるし、日本政府の規制値の250倍の数値である。 東京電力の福島第1原子力発電所の関係者は、福島第1原発の敷地から、もはや海洋中に汚染された放射性物質が流れ出ることは無いと言いさらに、海水中の放射性物質の数値は福島第1原発の周辺では、安定してきているという。

 一方東京電力の広報担当は、原子炉の地下には依然として溢れるような冷却水があり、原子炉から海洋に漏れ出ることを防ぐことは出来ないと語っている。

 原子力発電所から流れ出す水を減らすために、東京電力は、長さ2,400フィート、深さ100フィートの壁を原子炉と海洋の間に建設することを考えている。 この壁は、建設完了までに2014年の中ごろまでかかるとのことである。

「New York Times」 October 25, 2012

 

<当会からのコメント>

 

(水産庁の出鱈目ぶり)

 

 今回のニューヨーク タイムズの掲載記事を見て、当会がまず驚いたことは、日本の水産庁が食物連鎖を通じて放射性物質が魚に蓄積されることを認めたという事実です。すなわち、掲載したニューヨーク タイムズの記事の大意中にあるように、ケン・オー・ブッセラー氏は「多くの魚介類において1年前に比べてセシウム134、セシウム137が多く検出されることは、セシウムが未だ食物連鎖の過程の中に存在し続けているということを暗示するものといえる。」という主張に対して、「日本の水産庁によれば、ケン・オー・ブッセラー氏の主張には合理性があると認める。」とのなんともあっさりとした食物連鎖との関係を承認する内容のインタビューを受けていることです。

 

 しかしながら、水産庁は、福島第1原発事故直後の2011年6月の段階では、このようなことは言っていませんでした。当会の手元には、ある水産会社が当時発行したPR誌がありますが、そのPR誌の中では、「魚介類には食物連鎖を通じて放射性物質は蓄積されない。」との主張を広報していたのです。これは当時の水産庁の水産庁増殖推進部研究指導課・研究管理官の森田貴己氏へのインタビュー記事の中に出てくるものです。同氏はさらに、「海底に堆積した放射性物質が、ヒラメやカレイといった底魚と呼ばれる海底に住む魚を汚染するのではないかと危惧される方が多いですが、これまで海底土から底魚が汚染されたという例は聞いたことがありません。」とも言い切っています。

 

 しかしながら、底魚であるカレイやヒラメから突出して高い放射性セシウムが検出されることは,現状では当たり前になりつつありますし、何より「高いレベルのセシウムが測定される理由は、特に底魚からであり、これは、海底のセシウムに常に汚染され続けているから生ずる」とのケン・オー・ブッセラー氏の主張も、水産庁は手のひらを返したように「合理性があると認める。」のです。結局、水産庁が2011年当時に言っていたことは、逆に何らの合理性もなかったわけであり、単なる虚偽の情報の流布だけであったわけです。

(わけのわからない日本語版「CNN」の記事)

 

 この点において先に紹介した日本語版「CNN」の記事では、ケン・オー・ブッセラー氏自身が、「「一般の人たちには、何を信じればいいのか、誰が本当のことを言っているのか分からないという不安が根強くある。

 

 放射性物質についてことさら騒ぎ立てられることも多く、恐怖心をあおっている」と指摘している。」との記載がありますが、そもそも正しい情報のヘッドクォーターになるべき、所管の役所の知識や情報がこのざまでは、国民の情報に関する疑心暗鬼度を徒に高めるだけに終わるのは当たり前のことといえましょうし、むしろ国民に対して、漠然たる「恐怖心をあおっている」のは、役所のこういった発言や行動なのであるということが何故わからないのか、不思議に思われます。

 

 ちなみに、この「CNN」の記事は、外国メディアからの発信でありながら、日本語版ということもあるのか、魚の汚染レベルが高いにも係らず、同氏が「危険なレベルの高さではなく、ことさら騒ぐ必要もない」とも発言したことになっており、全体を通して、何を言いたいのかさっぱりわからない記事になっています。

 外国メディアからの発信の情報といっても、こういう一貫性の無い情報内容が混在して発信されている記事が往々にして存在するという事実は、情報リテラシーの度合いを上げるためにも、我々は良く認識しておくべき事項といえるのではないでしょうか。

(顕在化してきた問題) 

 

 さて報道されたような事実関係を受け、先に紹介した「ネイチャー」誌の記事内容にもあるとおり11月12日、13日の両日、東京大学でこの問題に関する会議が行われ、福島沖の魚などの放射性物質による汚染は、依然として続く、「福島第1原発からの放射性物質の含有された汚染水の流出」や「海底への放射性物質の蓄積」という事象のほかに、「川からの放射性物質の流出」も大きな原因と考えられるに及んでいることが明らかになっています。

 また、魚種によって同じところに住んでいるのに何故ここまで、汚染の数値が相違するのかという点が、大きな問題として顕在化されてきています。大意を和訳しているニューヨーク タイムズの掲載記事にもあるように、アイナメからは、極めて高いセシウムが検出されていますが、蛸に関しては規制値をクリアーしており、漁が可能となっています。この相違がどこから来ているのか、今後の重大な研究課題となっているわけです。

 

(わからないこととわかることの区分け)

 

 思うに、今回の福島第1原発のような原子力発電所のシビアアクシデントの対策は、チェルノブイリの状況を検討して練るべきところは当然なわけですが、チェルノブイリ後に起こった事実については、多くの情報が原子力ムラ(Nuclear Establishment)からの圧力により、原子力ムラ(Nuclear Establishment)にとって不利な研究発表等自体が出来ない状況になっているという実態があるといえます。

 

 さらに言うならば、このチェルノブイリの事故においては、大規模な海洋汚染は起こされていないわけですので、今回の事故によって始めて直面する多くの事態があるはずなのです。ちなみに当会は、本トピックス欄の11月15日付のものに掲載済みのとおり、町田市全域に亘る土壌の放射性物質の含有調査を当会の費用負担で行い公表しております。

 

 この結果を見ていただければおわかりいただけると思いますが、町田市域という限定された地域においてすら、土壌の汚染度の差は10倍以上あるのであり、さらにほんの2、3百メートルの相違においても、5倍以上の差があるという事実があります。一体全体これは何が原因なのでしょうか?チェルノブイリの事故後においても同じような事実は喧伝されていますが、しかしながら、その確かな理由というのは、未だ科学的に証明されているものはありません。

 

 地上の問題においてすらこのような状況ですので、ましてや海洋さらに容易に視認できない海底の汚染問題をどのように解明し、対処していくのか、とにかく、放射性物質の拡散と汚染の問題については、容易にわからないことだらけなのです。

 

 こういった状況の中で、管轄官庁が、少数の自らに有利なデーターだけに乗り、また証明されていない事実にも係らず、推定により、注釈すらつけずに喧伝することは、極めて危険な将来を社会にもたらすことになるといえましょう。このような実態を垣間見るとき、ソーシャル・メディア、オルタナティブ・メディアの重要性を我々は再度ここにおいても認識する必要があると考えます。当会としても、その役割をいささかでも担うことが出来るよう、今後も真摯に情報の発信に取り組んでいきたいと考えています。

 

(東京電力の開き直り)

 

ところで、大意を和訳して掲載したニューヨークタイムズの記事において、記事の末尾部分に、東京電力が破壊された原子炉を冷却するために使用したところの放射性物質で汚染された水が、海に漏れ出すことはどうしようもないことだとの趣旨の主張をしているくだりがあります。

 

 福島第1原発の事故後、汚染水が海に流れ出すことへの国際的な批判に対して、東京電力は、放射性物質の海洋投棄は国際的にも認められていないが、陸からの流出は規定が無いなどという詭弁を用いて、流出の正当性を主張したものでした。

 

 しかしながら、この主張に対して、痛烈な批判を社会的にも国際的にも浴びると、あとはダンマリを決め込み、日本のメディア・ブラックアウト(メディアの大停電)を奇貨として、その状況を継続させてきています。驚くべきことにこのような状況に対して、日本政府は、対応を民間企業の東京電力任せにして、自ら積極的に事にあたろうとしようとする姿勢すら見えません。

 

 しかしながら、紹介している「ネイチャー」誌にも、毎月約1兆ベクレルのセシウムの流出が現在も海に継続しているとの分析がなされ、さらに東京電力は遮水壁ができるまでにあと1年半以上かかると言い、それまでは流出を継続するとまさに開き直っているわけです。

 

(海洋国家としての誇りはどこに)

 

このような事実が、国際的に報道され公にされている事実を、我々日本国民は直視しなければいけないと考えます。まがりなりにも、我々国民に我国が世界の先進国であるとのプライドがあるのであれば、、放射性物質の太平洋への垂れ流しをこのような形で継続し続けることは、明らかに国辱であり、日本の国際的評価を日々劣化させている事態が進行していることを強く意識するべきと思料します。

 

 残念ながら、12月16日の衆議院選挙に向けて、この汚染水問題を重大視し、争点としてくれる政治家は、ほとんどいません。

 

 しかしながら、政治家とは、事の重大性を判断し、何よりも国益の維持に腐心することこそが、本当の政治家といえましょう。

 

 自国に対する国際社会からの尊敬とは、まさに国益そのものなのではないでしょうか。国益の擁護ということを喧伝するのであれば、何よりもまず国を挙げて真っ先に取り組まなければいけないこととの一つが、新たに指摘され出した川からの放射性物質の流出問題も含めた、この汚染水の流出に対する対策と当会は考えます。

 

 それが今まで有史以来、太平洋を含めた海から様々な恩恵を受けてきた「海洋国家」としての日本の義務であり責任であると当会としては思料する次第です。

 

(平成24年11月23日事務局記)