参議院選挙の結果と脱原発派にとっての内外からの朗報

(自民党の圧勝に終わった参議院選挙)

参議院選挙が終わった。予想通り、自民党の圧勝に終わった選挙だったが、この選挙は脱原発派に取ってみて、敗戦だったのかどうか、今一度考えてみたい。

 

確かに数からみた場合、大政党の中で、唯一原発推進を党是とする自民党が圧勝したこと、7月17日付の本トピックス欄にて紹介したような筋の通った脱原発派の5人の候補のうち、谷岡郁子氏、森ゆうこ氏、舟山やすえ氏ら3人もの候補者が落選したこと、そして良識的な脱原発派政党と言えた「みどりの風」が実質的に解党し消滅せざるを得なくなったこと等を見ると、明らかな敗戦と言わざるを得ないものだろう。

 

しかしながら、東京選挙区での山本太郎氏の当選という事実は、たった一人の当選ではあるが、脱原発派にとって見ると極めて重要な1勝だったと思料する。

 

(メディア・ブラック・アウトの実態)

事故から2年以上経過したと言うのに、福島第1原発は高濃度の汚染水がとうとう海洋に大量に漏れ出したと言うべき状況が現出しており、また3号機からは蒸気が噴出し、到底冷温停止による収束などという状況からは、ほど遠く、むしろ破局に向かっているのではないかという不気味さを感じずには入られない昨今である。

 

しかしながら、日本のマスコミは、その深刻な状況を全く伝えようとしない。

それだけではなく、福島の子供たちの異常な甲状腺がんの発症率という問題(本年616日付本トピックス欄参照)すら、正確に伝えることはなく、今後日本人が国土と国家の将来を考えれば、何よりもまず考えなくてはならない、この原発問題とその処置・処遇という問題から、目をそらさせるために、しなければいけない報道を行っておらず、あまつさえ、偏向的な方向への誘導としか思えない報道が跋扈するという内容が、今のマスコミの状況なのであり、この点は本トピックス欄において何度もお伝えしているとおり、欧米からはメディア・ブラック・アウト(メディアの大停電)と揶揄される始末であり、まさに亡国のための走狗になった機関が日本の今の多くのマスコミの姿と言っても言い過ぎではないように思われる。

 

脱原発派にとって見ると、むしろ政府、電力会社より先にこの多くのマスコミの姿勢と言うものと対峙し、それをただすべき努力の傾注こそが、肝要な戦略になっているようにも思われる。

 

(山本氏当選の意味)

そう言った意味では、この山本氏の当選は画期的である。

彼は、こういったメディア・ブラック・アウトの中においても、60万票を超える票数を東京選挙区で獲得し、当選した。

 

マスコミ機関がいくら情報を抑えても、原発問題というワン・イシューを最優先の政治課題として、実に首都東京の中の60万人以上の有権者が正しく事の認識を行い、脱原発を志向したという事実が今回の選挙では明らかになったものといえるからである。

 

これは為政者側に立ってみると無視できない重大な事実であり、今後はこの集団を如何にこれ以上増加させないようにするかということに腐心してくることは必定といえる。

 

しかしながら、山本氏は、選挙期間中もそうであったように当選後の今後は、継続して、このメディア・ブラック・アウトの事実を公の場で主張していくことも間違いない。

 

このことは、多くの日本国民が彼の言葉で、ようやくマスコミの真実に気が付き、正しい事実認識を獲得し始める契機が出来てくるのではないかと言う意味で、今回の山本氏の当選が極めて重要なものであったと当会としては考える由縁がさらにあるものである。

 

(メディア・ブラック・アウトの典型例)

ところで、メディア・ブラック・アウトの典型的な事例が、今回の参議院選挙直前にあった。以下の報道は、米国CNBCによる報道なのであるが、日本のエネルギー政策ということを踏まえれば、こういった国際的な動きがあると言うことこそ、まさに参議院選挙直前だからこそ、日本のマスコミはマスコミとして、国民に対して正確にそして絶対に伝えなければならない事実であったと思われる。しかしながら、このニュースは、当会の知り得る限り、日本のマスコミにおいて今まで報道されたものを見ていない。

(Germany rebuffs Europeanuclear power subsidy proposal)

 

 

(EUからの脱原発派への朗報)

この報道は、英文の標題(「ドイツ政府は、EU内における原子力業界への各国政府による補助金政策行政を拒絶した」)からもわかる通り、「EUにおいて、各国政府が今後も原子力産業に対して、国家として産業振興のために補助金を出していくことに対して、ドイツ政府(メルケル首相)が、明確にそれを拒否した。」というニュースを伝えるものであるとともに、日本の選挙民にとっても極めて重要な事実であると思料されることは、記事中にあるようにメルケル首相が拒絶したその理由と背景である。

 

(ドイツの理論の正論性)

すなわち何故にメルケル首相は、この提案を拒絶したのか?

記事から読み取れることは、原子力産業への補助金の交付自体が、再生可能エネルギーの育成に対しては、再生可能エネルギー側から見て、他のエネルギー(原子力エネルギー)に関する競争力を弱めることに繋がるものであり、それでは国策として再生可能エネルギーを促進するという理論と相入れないものがあり、到底同意できないということである。

 

この理論は極めて合理的なものといえるが、当会としては日本においては、脱原発派も含め、原子力産業への補助金行政の打ち切りと、再生可能エネルギーの育成投資の補助金等の促進政策がトレード・オフの関係になっているという主張を寡聞にして、今まで聞いたことは無かった。この記事に接したとき、従来から、自民党を始め原発推進派が、脱原発を否定する理由の大きなものとして、この代替エネルギーとしての再生可能エネルギーの脆弱性という点にあったわけだが、国家のエネルギー政策を再生可能エネルギー等に求めざるを得ないものになれば、エネルギーに対する補助金は、再生可能エネルギーに対峙する原子力発電等に関しては、大きく絞り込み、原子力産業自体の優位性を低下させる処置を行わなければ、そもそも再生可能エネルギーなどというものは、隆盛し得ないはずであったといえる。

 

(割に合わない原子力発電所)

日本の原子力産業は、地域への補助金を含め、如何に巨額の補助金行政でその業務が成り立っていたものであるか、業界関係者であれば、その事実は、ある意味公知であった。

 

そして、そもそもの発電コストについても、廃炉作業費、使用済み燃料の処理コスト、シビア・アクシデントが生じたときのコスト等の取り込みが全くなされていなかったわけだったのであり、原子力発電というもの自体、これらの内容を踏まえれば、火力発電、水力発電に対する競争優位性は、ほとんど無いと言って良い状況にあったわけである(この辺りの事情に関しては、本年1月に発刊された「原発はやっぱり割に合わない」大島賢一著 東洋経済新報社に詳しい)。

 

(議論を避けた自民党)

こういう状況だからこそ、今回の参議院議員選挙においては、原子力発電というものの真のコストを国民全体に対して明らかにし、且つそれに対する競争者となる再生可能エネルギーや天然ガスエネルギーへの国家としての育成プログラムをどうするのか、論点をそういうところに帰すことこそが、国政選挙なのであろうが、これを論点にされた場合、明らかに自民党としては、過去の失政だけではなく、今後の原発推進も覚束なくなるため、この議論を徹底的に避けたわけである。本来であれば、与党側が避けた論点を掘り起し、その重要性をもって、国政の論点に据え直す役目をマスコミが負わなければならないはずであったのだが、今の日本のマスコミがそれをするはずもなく、結果として脱原発問題は、原発を継続することが良いのか悪いのかという、倫理的なイシューのみが強調されることとなり、脱原発派にとって見ても、この問題に関し、推進派が倫理問題の延長としてのイデオロギー問題にすり替え、ネガティブキャンペーンを張る余地を与えてしまったといえるだろう。

 

(イデオロギーの問題とは無縁の脱原発問題)

しかしながら、当会として強調したいことは、この脱原発問題はイデオロギーの問題では無いということである。

 

そのまさに明確な証拠が前述のCNBCの記事なのであり、ちなみにドイツのメルケル首相は、キリスト教民主同盟の党首であり、同党は、ドイツでは、左派ではなくむしろ右派の保守政党なのである。

つまり、脱原発問題に関しては、世界では右も左もないのである。

 

そこにあるのは、国の将来をどうするのか。悠久の国家をどのようにして作るのかというまさに愛国心というもののみが観点となっているといえる。

 

(世界との彼我の差)

もっともメルケル首相は、何故ここまで強気に原子力発電所の補助金行政を否定できたのか。そこには、ドイツ自体が、再生可能エネルギーで国内のエネルギー需要をまかなっていくことに対して、概ねの目途がついているということも大きい。

 

日本の場合、自民党時代からの明らかな失政により、石油に代わる代替エネルギーに関する開発に関しては、原子力発電への集中的投資を行ってしまった結果、今や世界からは大きくその趨勢から、遅れることになってしまったのである。

 

実際このことが如実に表れているのが、株式の時価総額による比較であろう。

 

世界の株式時価総額トップ20社には、2009年の段階ですら、実に4社(中国、スペイン、米国、デンマーク1社づつ)もの自然エネルギー関係会社が入っているのだが、日本においては、未だ東証への上場自体、自然エネルギー関係会社は、1社もないという状況であり、彼我の差は大きく開いている。

 

(戦略論としての活用)

だからこそ、補助金行政に対しては、日本においては、なおのことメルケル方式を加速させる必要すらあるのではないかという点について、今回の国政選挙では、徹底した議論が行われるべきであったのだが、これを行えば、原発推進政策を否定せざるを得なくなる自民党としては、まさにその議論を避け続けたわけである。

 

かつて当会は本トピックス欄(昨年817日付)において、戦略論におけるミッドウェー海戦の教訓を紹介・主張し、情報を隠した部分にこそ相手の弱点があることを論じた。このことは、今後の脱原発論においては、原発推進派や、自民党が議論を避けたすなわち情報を隠蔽したともいえる、この部分、原発の真のコストと補助金の割り振り、競争エネルギー育成のための補助金の絞り込み、廃止という命題についてこそ、弱点と見て、脱原発派として徹底した議論とそのための情報の開示を為政者等に対して求めるべきという戦略が浮かび上がる。

 

(山本氏に求められること)

そのためには、国政調査権等を行使できる立場となったという面でも、山本太郎氏の存在は脱原発派にとっては、大きいといえる。

 

もっとも、為政者やマスコミ等も単に山本氏ら側からの批判や意見を今後も手を拱いてみているだけのはずはないものなのであり、それへの反作用としての山本氏に対するネガティブキャンペーン等は、当然予想すべきであり、こういったキャンペーン等に対するリスク管理をどうするのか、その対応や準備の仕方の巧拙にも、山本氏が単なる市民運動家から、優秀な政治家への脱皮を図れるかどうかの一つの大きな試金石があると当会としては考えるものなのである。

 

(平成25728日事務局記)