<米国サウスカロライナ大学発 どんな低線量被曝でも健康に影響がある。>

福島第1原発事故のその後における我々の生活や・健康に関する最大の関心事は、飛散・拡散された放射性物質による「低線量被曝」が人体にどのような影響を与えるのかという問題につきると思います。

 

当然、原子力ムラ(Nuclear Establishment)は、徹底してこの「低線量被曝」に関する生活や健康への影響を否定してきていたわけですが、昨今は、本年524日付当会のトピックス欄にて紹介するように政府系の研究機関である放射線影響研究所からも「低線量被曝」の健康影響を肯定する論文が出ています。これは、「Radiation Research」に掲載された日本の放射線影響研究所の「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第 14 報、19502003、がんおよび非がん疾患の概要」という論文に関するものだったわけですが、現在の日本政府、IAEAの「低線量被曝」に関する見解を変更させることにつながる可能性のある重要な論文になると思料されるものとなっています。


また、立法面においても、当会トピックス欄本年621日付にあるように「原発被災者支援法」(「子供・被災者支援法」)が、与野党の垣根を越えて国会では、成立しているものです。  

この法律は、福島第1原発事故の被災者に救援を行うことを目的とするものであり、当該法案の注目点として、原発事故に起因するとみられる疾病が被災者に生じた場合には、事前に決定されているネガティブリストに記載されていない疾病であれば、これをそれに起因するものと推定し、医療費の減額等を受けれるとするものであり、従来の被害者に疾病と事故との被害にまつわる因果関係の立証を課すことをやめ、法律で立証責任を転換させ、被災者が容易に医療費の減免を受けれるようにするということを実現させるという画期的な法律となっているものです。

 

このような特色を持つ法律が成立する背景には、今や与野党間においても「低線量被曝」の健康への悪影響を肯定するというベースがあるからこそ、当該法案が成立されてきているものといえましょう。

まさに原子力ムラ(Nuclear Establishment)が否定し続けても、「低線量被曝」に関しては、生活や健康への悪影響を実質認めるという大きなパラダイム転換が静かに日本においても、進行中であると当会としては、思料しております。

 

こういった中で、先般(1114日)米国のサウスカロライナ大学発のニュースとして「低線量被曝」のパラダイム転換をさらにフォローする記事(http://www.sc.edu/news/newsarticle.php?nid=5214)が公表されましたので、その大意を和訳し、以下掲載させていただきたいと思います。

 

(大意)

 

<どんな低線量被曝でも健康に影響がある。>

 

――多くの放射線研究の幅広い分析によっても、

        放射線における健康に影響を与えるか与えないかの閾値は無い――

 

どんな低線量被曝でも健康に影響がある。複数の科学者が、このことをケンブリッジ哲学社会ジャーナル生物レビュー誌に発表した。


これは、過去40年間に亘り、公に発表された論文を集約化した46のピアレビューの研究という幅広い分析の結果として、公表されたものである。


サウスカロライナ大学及びパリ第11大学の研究者は、自然放射線量は低いように見えるが統計的に見ると高いところにおいては、低線量被曝が、健康に関するいくつかの指標同様DNAに対して、悪影響を及ぼすことを証明したものである。


その分析は、世界中の鉱物の影響により自然放射線量が特に高い場所例えば、イランのラムサ―ル、ケニヤのモンバサ、フランスのロデベ、中国の陽江を含む場所の研究に関して、メタアナルシスの解析手法を使い証明されたものである。


イランのラムサ―ル、ケニヤのモンバサ、フランスのロデベ、中国の陽江やその他の自然放射線量が高い場所は、長年の間、科学者たちより、生命に対する放射線の影響を理解するというテーマにおいて、注目され研究対象とされてきていた。


しかしながら、各科学者による研究では、統計的に見ても調査対象が少量であるため、その影響を証明することはむずかしかった。 

 

ケンブリッジ哲学社会ジャーナル生物レビュー誌に発表されたこの論文の共同執筆者であるサウスカロライナ大学の生物学者であるティモシー・ムソー教授によれば、「この証明をするためには、大きな調査対象がいるのであり、今までの調査対象では、小さいのである。」と言う。そして、「厳格な統計的手法を使うことにより、多方面の地域と多方面の研究をプールすることにより、低線量被曝に関する回答が得られることになる」と言う。


もう一人の共同執筆者であるパリ第11大学のアンダース・メラー教授によれば、「自然放射線量が高い地域に関する研究を含む5,000以上の研究を隈なく探し、量的にも比較可能な46のものに集約化した。」と言う。さらに「集約化された研究では、被曝していないグループと被曝したグループとの間で、放射線量の量的な相違による内容が比較検討された。それぞれの研究は、研究間の比較対象ができるようになされた。」と言う。 

 

当該研究においては、植物や動物も対象とされているが、多くの部分において人間が対象とされるものになっている。それぞれの研究においては、放射性物質による影響を受ける事項について、例えば、研究室内で計測可能なDNAへの傷害行為、ダウン症などの発症率、生誕時の性別の比率などが検証された。


どの事項についても、統計的なアルゴリズムが使われた場合、単一の意味しか、もたらさない。これらの事項については、すべての研究を通した比較検討が必要とされる。


科学者たちは、健康に対して否定的な事項、すなわち、免疫性の低下、肉体の問題、奇形率、病気の発生率、を含むあらゆるカテゴリーに統計的有意性を見出した。


その健康に対する否定的事項の発生率は、偶然性を超え有意性があるものであった。


ティモシー・ムソー教授によれば、「放射線量が高い地域では、検査対象が少ない等のため、低線量被曝による健康に対する否定的な事項の発生は、明瞭ではなかった。しかしながら、メタアナルシスの分析手法を使用すると健康に対する否定的事項の発生の有意性は、このように明らかになる。」と言う。また「放射線に対する影響について閾値が無いということに関しては、明確に証拠があるということになった。」と述べ、さらに「健康に悪影響が出ないような被曝に関する閾値があるという考えが過去何年間も考えられてきた。活用可能な統計的な手法により、放射性物質の影響は測定可能であり、健康に悪影響を及ぼさない閾値は無いということが明白になった。」と言うのである。


ティモシー・ムソー教授は、この閾値無しを証明した彼らの研究成果が、低線量被曝リスクに関する議論に貢献できることを希望している。

 

彼は「チェルノブイリや福島などの原子力発電所の事故による放射性物質の汚染においては、汚染による低線量被曝を問題が無いものとする産業界を中心とする企てがある。


これは自然放射線量は全く健康には影響がなく、放射線量がそれより単に1倍から2倍程度のものであるに過ぎないという理由から、そのような主張がなされるわけなのである。」と言う。そして「しかしながら、低線量被曝に関する影響の真実は、我々が被曝に関する制限、特に意図的な人体への被曝、例えば、原子力発電所からの被曝、医療行為や空港におけるエックス線による被曝について今までと違ったことを特に考えなければならないということを示している。」と主張するのである。

 

 

<当会からのコメント>


(「低線量被曝」に関する議論)


 放射線の被曝については100ミリシーベルト以上の被曝(一時的なもの、累積的なもの双方とも)は、人間の健康に悪影響がある被曝であるという点については、現在の学説上もほぼ異論がない形となっています。


 問題は、100ミリシーベルト未満の被曝量については、どうなるのかということなのですが、これは「低線量被曝」と言われ、健康に影響があるかないかを分ける閾値(しきい値)は無いという説と閾値があるとする説が長年対立していたわけでした。


 ちなみに、閾値があるとする説では、この閾値を多く100ミリシーベルトとして捉え、100ミリシーベルト未満の被曝では、健康に影響は無いと主張するわけです。

 逆に閾値が無いとする立場においては、どのような低い被曝であっても、放射線による被曝は、確率論的に人の健康に悪影響を及ぼすものとなるとの主張を取るわけです。


 今回掲載した記事は、この閾値があるか無いかという「低線量被曝」の健康影響について、閾値は無いとして、放射線による被曝は、どのような低いものであっても、確率論的に人体に悪影響を及ぼすという主張を統計的に裏付けたという論証(論文)を紹介するものです。


(メタアナルシスによる証明)


パリ第11大学のアンダース・メラー教授及び米国サウスカロライナ大学のティモシー・ムソー教授は、ともに放射線に関する生物影響の研究を行う世界的にも著名な学者ですが、今回の論文においては、メタアナルシスによる統計解析を行っています。


 メタアナルシスとは、過去に行われた複数の研究成果を統合し、より信頼性の高い結果を求める統計手法であり、個々のデーターでは、データー不足のため有意性が見つからなかったとしても、この統計解析手法により、データー不足を補う結果を得ることが出来るとされます。


(今回の論証の注目点)


 当会が今回の掲載記事において注目することは、「低線量被曝」には閾値がないということが証明されたという両教授の主張の他にこの論証のベースが、地球上の自然放射線量が高い地域における健康影響に関する内容として検証がされたということです。


 地球上には、本掲載記事にあるようにウラン系鉱物の露出等により、放射線量が高い地域がいくつかあります。


 福島第1原発の事故の後は、こういった地域にも人が住んでおり、健康影響も出ていないとして事態を矮小化する動きが原子力ムラ(Nuclear Establishment)を中心に行われました。


(ブラジルのガラパリ)


 ちなみに、地球上における自然放射線量が高い地域というと、掲載記事には載っていませんが、ブラジルのガラパリがよくあげられるわけです。


 ガラパリは、ブラジルの大西洋岸に面する街であり、リゾート地としても有名な街ですが、ウラン系物質を含むモナザイト鉱石の影響で地域の放射線量が高く、年間の被曝線量は、15ミリシーベルト程度になると言われている街です。


 福島第1原発事故の後は、日本のテレビがガラパリを取材し、また原子力ムラ(Nuclear Establishment)の専門家がコメントを出して、放射線被曝の危険性を矮小化しているとしか思えない番組や報道が流れたことはご記憶に新しいのではないでしょうか?

 

(マスコミリテラシーの必要性)


 しかしながら、当会が実際にガラパリに行った経験のある方から聞いた内容においては、ガラパリにおいては、人口が増大するにつれ、放射線や放射性物質による健康被害を懸念する声が強まり、地面からの放射線を遮蔽するため、道路のアスファルト舗装を強化したり、モナザイト鉱石が多い海岸部の海岸線の舗装に力を入れたりする対応が行われているそうであり、こういった事実は、テレビ報道からは、全く抜け落ちており、まさに当会が本トピックス欄の本年817日付のものに記述させていただいたとおり、情報分析として、「情報の正しい総量(すなわち正しい事実)」に対して「何が隠されたのか」、「何が報告されていないのか」という眼で、このマスコミの報道を見れば、作り手側の意図が良くわかる結果となっているものといえましょう。


 ちなみに当会は、前記817日付トピックス欄においては、太平洋戦争中の国民等への情報隠蔽を事例として、この問題の提起をしたわけですが、当時の報道機関が、この情報隠蔽に対して、これに積極的に加担していたことは、公知の事実といえるわけであり、その内容が事実と異なったことを報道するだけではなく、さらに事実を黙殺し、報道しないという手法でも、世論操作に加担していた点が重要と考えます。


 そういった視点から見るとき、このガラパリの報道においては、対抗的に伝えられるべき、ガラパリにおける被曝回避の取り組みが全く日本の国民に伝えられていないわけであり、事実を黙殺し、伝えないという点で、少くともこの福島第1原発事故という問題に関しては、我国の大手マスコミは、太平洋戦争中の報道機関と大差がないことがいみじくも証明できるもの(すなわちメディアブラックアウトの証明)となっていることを当会としては、指摘せざるを得ないものがあります。


 福島第1原発の事故に関する報道に対しては、世論誘導をされないためにも、国民のマスコミリテラシーが欧米人並みに必要不可欠となっている事実を我々は直視する必要があるといえましょう。


(福島とは同列には論じられない問題としてのガラパリ) 


 なお、念のため言及しますが、ガラパリや他の自然放射線量の高い地域と、チェルノブイリや福島第1原発事故による周辺地域における被曝、特に「低線量被曝」を同列に論じることには無理があります。


 まず、原子力発電所のシビアアクシデントの発生の後の「低線量被曝」の多くが、周辺地域においても、食物を通じた内部被曝によるものであり、この点で、ガラパリ等の自然放射線量が高い地域における食物を通じた継続的な内部被曝は、後記のように放射線量が高い原因となる核種がウラン崩壊系列の核種によるものであるために食物等には取り込まれにくいこと等の理由により、同列には論じられません。


 また、ガラパリにおける自然放射線量の強さは、多く露出するウラン系鉱石を元にするものであり、ラジウム226やウラン系鉱石より揮発する気体としてのラドン222によるα線による被曝を中心にまずは考えるべきものであり、あわせて自然界に存在するウラン崩壊系列の核種による被曝であることが重要といえます(なお、ウラン崩壊系列の核種からは、γ線も出ますので、自然放射線量が高いという場合は、このγ線を捉えているものとなります)。


 これに対して、チェルノブイリや福島第1原発の事故においては、自然界に存在しない核分裂生成物であるヨウ素131、セシウム134、セシウム137がまず問題となっているものであり、これらの核種が「低線量被曝」における健康上の問題の原因として真っ先に俎上に上るものとなります。なお、これらはγ線を主として出す核種でありますし、食物にも取り込まれやすい核種となります。


 ちなみにα線は、数ミリ程度しか飛ばないものですので、300メートル近くを飛ぶと言われているγ線とは性質がより異なります。よって実はガラパリや他の自然放射線量の高い地域において、健康影響として最も懸念されることは、気体としてのラドン222を吸気し、このラドン222が肺の細胞に付着することによる継続的なα線被曝です。α線は前述したとおり、数ミリしか飛ばないものですが、付着した後、肺の細胞を継続的に傷つけることにより、肺癌を引き起こす原因となるわけです。


 当会の本トピックス欄本年817日付等の内容でご紹介しているウラン鉱山の健康被害問題の由縁の中心は、ウラン鉱山及びその周辺から揮発するこのラドン222による肺癌の引き起こしでした。日本では、この問題は、かつてウラン鉱山のあった人形峠周辺で顕在化していますが、何よりも重要なことは、気体としてのラドン系列のものの吸気による健康被害は、明らかな低線量被曝による健康被害の顕在化だということです(※注)。


(低線量被曝による健康影響は欧州では公式にも認められている) 


この点において、ラドンが発生しやすい石造りの家が中心である、欧州においては、家庭内でのラドン被曝(低線量被曝)による健康被害に極めて敏感です。


 ちなみに、スウェーデンにおける肺癌の発生原因の第三位の原因が、このラドン被曝(低線量被曝)によるものであることをスウェーデン政府は、すでに公式に認めています。


 スウェーデンは、国土に花崗岩地帯が多く、かつてはウラン輸出国でもありましたので、IAEAの初代事務局長をも輩出し、この点から原子力産業に対しては推進派に属する国といえるのですが、このスウェーデンすらが、国民の肺癌の発生原因の一つをラドンによる(低線量)被曝であることを公式に認めているという実態を我々は何よりも直視する必要があるといえましょう。


 「低線量被曝」の健康被害は、日本において報道されていないだけで、実は世界的には一部核種においては、常識になっているものなのです。


(文化のちがいとしての脱原発運動) 


 ちなみに、欧州における脱原発運動の強さは、欧州が日本とは異なり「石の文化」であり、そこから派生する放射線の影響に対して、自らの健康を守るためには、いやが上にでも、これすなわち「低線量被曝」と向き合わなければならなかったという歴史が、その原因の大きな部分を占めるのではないかと当会としては、考えるところがあります。


 そういった意味で、「木の文化」である日本という国は、「低線量被曝」に対しても、恒常的に鋭敏である必要がなかったという意味で、その国民性として、野放図な原子力政策を極めて進めやすかった国であったのではなかったのかという事実があり、これが福島の悲劇を招いた原因の一つなのではないかということを当会としては、強く考えるところがあるものです。


(脱原発派による真摯な総括の必要性)


 脱原発政策が先の衆議院選挙においては、勝敗の要諦にならなかったことに関しては、何故そうならなかったのか、脱原発派は、真摯にその原因を分析すべきでしょう。


 しかしながら、その背景には、脱原発運動が進む欧州とは、こういった日常文化の相違という隠れた重大な根本的価値観の相違があるのかもしれないということをも、充分に認識して、敗因の総括を行うべきでしょう。そしてそれらの結果に基づき、戦略の再構築を早期に行わなければ、来るべき来年の参議院議員選挙もまた脱原発派にとっては、今回の衆議院議員選挙と同様の結果となるというコンサーンを当会は、否定することが出来ないものなのです。

 

※注:ラドン222により生ずる放射線はα線であり、数ミリしか飛ばないため、α線が計測可能な計測器を使用したとしても、その存在は容易にわからないという問題があります。

ラドン222の存在を確認するためには、ラドン222の気体濃度を特殊な計測器で測定するしか方法がなく、この点もラドン222への対処策における困難な問題となっています。


(平成241224日事務局記)