<「スウエーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか」から見た日本の原子力発電所政策等について>

当会は放射性物質の土壌汚染度の町田市との近似性から、チェルノブイリ後のスウェーデンにおいて起こった事象や対応策について関心を持ち、資料等の収集を行ってまいりました。

 

町田市の放射性セシウムによる一平方メートル当たりの汚染度合いについては、当会はデータより一平方メートル当たり約2万ベクレル程度と考えておりますが、この数値はチェルノブイリ事故後のスウェーデンのウメオを中心とする地域の汚染度と近似しているものです。

 

ちなみにトピックス欄に掲載しているトンデル論文によれば、ウメオを中心とする地域の土壌汚染度においては、ガンによる死亡者が、将来的に有意に5%程度増加するという報告が出ているものです。

 

本年2月にこのスウェーデンにおける放射性物質に対するチェルノブイリ事故後の対応や対策をまとめたものといえる「スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか」(合同出版KK)という本が出版されました。

 

この本はチェルノブイリ事故後にスウェーデン国防軍研究局が中心となってまとめ、2002年に刊行された報告書をスウェーデンに在留する日本人2人(高見幸子氏、佐藤吉宗氏)が翻訳し、出版したものであり、スウェーデン政府による公式見解書としての意味も有するものです。

 

ちなみに、スウェーデンは世界的にも有数なウラン埋蔵国(※注1)であり、初代IAEAの事務局長を輩出もしており、世界的に見れば原子力発電の推進国側にあるといえるものですので(※注2)こういった政府がどのような原子力発電所と、それに対する安全対策と社会防護のための見解を有しているのかは、日本における将来への指針となるだけではなく、過去の日本政府の政策を点検する上からも、重要な資料となる書籍であると当会としては評価しています。

 

この書籍中、特に重要な部分として当会が指摘したい部分は、シビアアクシデントに備えた原子力発電所の安全装備に関する項目です。

 

同書25ページには、スウェーデンの原子力発電所として「現在では、スウェーデンの原子炉は、重大な事故が起きた際に備えて放射性物質の放出を低い水準に抑える装置と防護システムが備え付けられています。」とし、シビアアクシデント用の特段のフィルターシステムの構造図が記載されています。

 

そしてさらに、「もし、深刻な事故が起き、格納容器内が高圧になった場合は、事故フィルタという防護システムが格納容器の圧力を緩和させ、放出物をろ過します。」「この防護システムに要求される安全基準は、炉心溶融を含むあらゆる事故の際に、炉心から放出した放射性物質のうち外部に放出される物質を0.1%以下(希ガスを除く)に低減することとされています。」とし、その安全性について言及をしています。

 

前述したとおりこの書籍の刊行は2002年でありますので、すでにスウェーデンにおいては、10年以上前からこのようなシステムが原子力発電所に備えられていることが常識となっていたのです。

 

仮にこの記述が述べるように、炉心溶融(メルトダウン)しても、放出する放射性物質を0.1%以下にすることができていたとしたならば、福島第一原発においても、事故フィルタさえ装備されていれば、事故により東日本に拡がった深刻な放射性物質による汚染は防げていたわけです。

 

それではなぜ10年以上前からスウェーデンにおいては常識となっていた事故フィルタシステムが、あれほど3月11日以前は安全だと電力会社がこぞって宣伝していた原子力発電所において、日本では装備がされていなかったのか?当会としてはこの点を検証するために、複数の資料より検討を行ってみました。

 

その結果わかってきたことは、1986年に起きたチェルノブイリ事故後、世界における原子力発電所の安全装備については、従前とは異なる高いレベルのものが要求されるようになり、結果としてこれが原子力発電所の建設コストを引き上げることにつながり、原子力発電所の経済性に多大な影響を及ぼすようになっていたという事実があります。(※注3)日本においてはこの実装を建設計画等に影響させないため、官民が一体となり世界的な安全基準を踏襲することなく、まったくシビアアクシデントに対する対策を外してきていたといえましょう。

 

今こういったシビアアクシデントに対する世界的基準へのキャッチアップすらすることなく福島第一原発での事故を無視し、大飯原発他の再稼働の動きが日本では進んでいるわけですが、これほどの重大事故を起こした点に対する本質的な改善もない状況でこのような話が進むこと自体、良識的に見て許されるものではないことは明らかといえましょう。

 

同書は、日本政府と電力会社が行ってきた過去の極めて重大な隠ぺい行為を、いみじくも明白にしてくれたという点でも、日本国民への重要なメッセージが伝えられていると当会としては思料するものであります。

 

(※注1:低品位ながら世界全体の15%のウランを埋蔵していると評価されている)

 

(※注2:現在のスウェーデンにおいては老朽化した原子炉の建て替えは認めるが、政府は経済的支援を一切せず原子力発電所の振興の是非は、経済合理性に基づく市場判断に任せるというかたちをとると同時に、自然エネルギーに対しては、政府が経済的支援をするという立場で政策が遂行されている。)

 

(※注3:フィンランドにおけるオルキルオト原子力発電所3号機はその典型とされ、初期の建設費は約3,500億円程度であったものが、その後安全性の要求により建設費の追加が続き、2009年にはドイツのシーメンスが建設計画より撤退し、昨年はこの問題が大きな原因となりフランスのアルバ社の大赤字が顕在化することとなった。このオルキオト原子力発電所は原子力発電業界では今やコストにおけるチェルノブイリと言われている。今やその総建設費は1兆5,000億円を超えるものとなっている。)

 

(平成24年5月23日 事務局記)