低迷する世界のウラン市場と日本の参議院議員選挙

7月21日(日)に投票される参議院議員選挙は、日本における原子力発電所の再稼働だけではなく、諸外国への輸出までをも党是とする自民党の大勝が予想されており、それに先駆け原子力発電所の新規制基準が原子力規制委員会より発表されてきたことにあわせ、各電力会社が続々と再稼働の申請手続きに日本では入ってきています。

このような状態は、世界のウラン(鉱山)業界にとっては、大変な追い風となるはずなのですが、何故かウランの国際的なスポット価額は、依然として低迷しており、米国の業界専門サイトの「U308 ウラニウム インベスティング ニュース」の7月4日付の記事によれば、以下の通り、この低迷は、ウランの供給過剰が原因との題目を持つ記事が掲載されるに至っています(「Uranium Spot Prices Sink on Oversupply」)。

http://uraniuminvestingnews.com/15045/uranium-spot-prices-sink-on-oversupply.html

この点、世界のウラン市場において、福島第1原発事故以前は、そのウラン消費の約10%を担っていた、日本の動向は、常に注目され続けているわけであり、今、日本の動静に対して、どのような記事が世界で配信されているのか、本サイトの閲覧者の皆様にも情報としての共有化をしていただきたく、上記記事のマーケット動向に関する部分につき、大意を和訳し、以下掲載してみたいと思います。当該記事には、日本の動向だけではなく、カナダのカメコ社と並ぶ世界の原子力ムラ(Nuclear Establishment)の雄と言えるフランス のアルバ社の動向、本トピックス欄の本年1月3日の記事においてお伝えした西アフリカナミビアの世界有数のウラン採掘プロジェクトであるランガー・ヘィンリッチ(鉱山)プロジェクトのその後の状況等に関しても、掲載がされております。これらのニュースは、日本ではほとんど報道されておりませんが、世界のウラン市場と市況の今後を占う上で、重要な情報と言え、これらを検討することは、脱原発派にとっても、今後の戦略を構築する上で、極めて有益な内容となるものと当会としては思料しております。

 

--------------------------------------------------------------------------------

「供給過剰により低迷するウランのスポット・プライス」

 

ウラン関係の調査会社である「トレード・テク社」によれば、U308のスポット価額は、1ポンド当たり前週より0.20ドル下落し、6月28日には、39.55ドルとなった。同社のライバル会社であるウラン関係のコンサルティング会社の「UxC社」によれば、7月1日までこのスポット価額は、39.50ドルで維持された。このように低い価額にあるウランのスポット価額であるが、「トレード・テク社」は、先週行われた6件のスポット取引に注目しており、より低価格のスポット価額により、利益がもたらされると購入者は考えていると報告している。

もっとも、売り手側はそのような低い価額での大量のウランの売却に対して、失望している。

しかしながら、低い価額であっても、量の少ない取引であれば、積極的に取引は行われている。購入者の多くが、生産者やトレーダーから購入する電力会社なのである。

「トレード・テク社」によれば、電力会社は未だこの低価額のウランの購入を追い求めているという。

 

・日本の原子炉

市場の供給過剰性は、精製物としてのイエローケーキの価額の下落として、影響することになる。

ウランの供給過剰は、2011年の福島原発の事故に起因するところが大きい。

しかしながら、日本の原子力発電所の状態は、7月8日に施行される原子力発電所の新安全基準により、即座に変化するように思われる。

この新しい基準に対して東京電力は、原子力規制委員会に新潟県の運転を停止している2基の原子炉の再稼働を申請する予定である。

東京電力は、柏崎刈羽原発の7基の原子炉のうち、2基の再稼働を目論んでいる。そしてこのことは、化石燃料の輸入コストにより、苦しい経営に陥っている電力会社の経営環境を改善する重要なキーとしてのステップになると考えている。

 

・「アルバ社」のニジェールのウラン鉱山が再開

「アルバ社」は、6月20日ニジェールのウラン鉱山の生産を部分的に再開した。この鉱山では5月23日にイスラム教徒による2つの自爆攻撃により、鉱山の電気プラントが損傷を受けるとともに26名の死者をだしていた。この鉱山すなわちソマイア鉱山の鉱山長であるパスカル・ベルナツィオーニ氏がロイター通信社に語ったところによれば、「復旧チームが不眠不休で電気プラントの損傷の修復に取り組んだおかげで、プラント内の電気の回復ができたものである」とのことである。

 

・「パラディン・エナジー社」に関するニュース

「パラディン・エナジー社」は、6月の終り近くになって、会社として資産価値を確定できないのでナミビアのランガー・ヘィンリッチ(鉱山)プロジェクトの少数権益を売却する相手を捜していたことを明らかにした。同社は2つのグループと交渉していたが、6月末までに結論が出なかった。結果同社は、その売却を継続し、9月末日までの第3四半期中に完了を目指すべきことになった。

2年以内に6千万ドルから8千万ドルのコストの削減を同社は要求されており、この売却により約1千万ドルのコストの削減を目指している。

つい最近、ジョン・ボーショフ氏は、自身の給与のカットを拡大し、同社トップとしての役目を継続すると示唆した。同氏の役員としての契約は今年までであるが、偶然にもこのウラン業界の王国に君臨して20年が経つことになる。同氏は引退の時期を先延ばしにするのではないかという業界の噂を無視するとともに、数か月以内に同社の再建を成し遂げるであろうと述べたものである。

U308 Uranium Investing News.」 July 4,2013

 

 

<掲載記事に対する当会からのコメント>

 

(柏崎刈羽原発の重要性)

前述した通り、福島第1原発事故の前、世界のウラン消費の約10%は、日本の原子力発電所による消費が担っていました。事故後は、この需要が消えてしまったわけですから、今回の日本における新安全基準の施行とそれに基づく各電力会社の再稼働の申請は、世界のウラン市場と市況にとって、極めて重大な需要の回復のための転換点となり得るものと言えるわけです。上記記事は、その率直な期待感を表しているものといえますが、その注目度合いには、日本の電力会社であればどこでも良いというものではなく、やはりリーディング・カンパニーとしての東京電力のもの、特に7基もの原子炉を有する柏崎刈羽原子力発電所の動向に世界的にも注目が集まっていることが、まずはこの記事からは明らかにされていると当会としては考えます。

 

(泉田新潟県知事の正論と新潟選挙区)

柏崎刈羽原子力発電所に対しては、何よりもまず、地元新潟県の泉田知事が福島第1原発の事故の原因が明らかになっているとは言えない現状で再稼働の申請には同意できないという極めてまっとうな主張を行っていることにより、その再稼働は、地元同意がないという点で容易にできない状況になっています。ちなみに泉田知事は、国策として原子力発電を推進してきた経済産業省のエネルギー畑のOBであり、このような立場の人が、現状の日本政府の原子力政策そのものを受け入れられないとしているに等しいと言う状況は、如何に現状の日本政府がやろうとしている(すなわちこのことは自民党がやろうとしているということですが)原子力政策が社会良識的に見ても容認できないものであるかを間接的に証明している事実と言えましょう。

今回の参議院議員選挙においては、新潟選挙区は定数2ですが、その枠内を目指し再稼働を頑強に反対する生活の党の森ゆうこ参議院議員が善戦しており、同氏が当選できるかどうかという点において、泉田知事を政治的にも一層擁護できるものとなり得るかどうか、新潟県民の意思が試されることになっている選挙区となっています。現状の世論調査から見ると自民党の圧勝が伝えられる今回の参議院議員選挙の中で、脱原発派から見た場合、この選挙区で森氏の当選が成就できれば、その勝利は、小さな1勝かもしれませんが、世界が注目する柏崎刈羽原発の再稼働がさらに遠のくと言う効果の上では、戦略的には極めて重要な1勝になるものと当会としては思料するものです。

新潟は、日本の原子力発電政策を強力に押し進めた田中角栄氏の出身地でありますが、皮肉にも当該出身地が今後の日本の原子力政策の良識としての止め役の地位を担う可能性が大きいものといえるのかもしれません。

その意味で、全国区における川田龍平氏、谷岡郁子氏、東京選挙区における山本太郎氏、山形選挙区における舟山やすえ氏のような筋の通った脱原発派候補同様、脱原発派としては、どうしても落としてはいけない候補者の一人として新潟選挙区の森ゆうこ氏の名前は記憶されるべきものと言えましょう。

 

(カントリー・リスクを帯びるウラン市況)

ところで、掲載記事には、フランスのアルバ社のニジェールにおける鉱山へのテロ攻撃とその後の状況が掲載されています。この事案は、世界のウラン市場が石油市場同様イスラム諸国等の政治動向において、極めて影響を受けやすい市場であることを証明する事件ともなったと言えるものです。

ニジェールは、北アフリカ中部の内陸国ですが、旧宗主国はフランスであり、原子力発電大国と言えるフランスの原子力発電所で消費されるウランの約3割がアルバ社により、このニジェールからもたらされています。本年1月にフランスは北アフリカのマリに対して、イスラム系過激派組織に対するマリ国内の治安を維持すると言う名目で軍事介入を行いましたが、この介入自体、実はマリの隣国であるニジェールのアルバ社が経営するウラン鉱山を守ることを目的とする介入であったと国際社会では噂されているものです。この軍事介入に対しては、本年1月にその対抗措置として、アルジェリアの天然ガスプラントでイスラム過激派による人質事件が起き、日本人10名が死亡するという事件ともなったものですが、このアルバ社のソマイア鉱山に対する攻撃は、これらすべての事件の延長線上にある事件として捉えるべきものと言え、ウランという鉱物資源自体も極めてカントリー・リスクにさらされやすい資源であることが如実になったと言える事案と言えます。

実際この事件の後、世界のウラン鉱山会社の間では、今後如何にしてカントリー・リスクの少ない国においてウラン資源の確保を目指すかということが経営課題として顕在化してきているものです。

もっとも、今回のソマイア鉱山のプラントの復旧は、本掲載時事の題目的に見た場合、ウランの供給過剰に関しては、肯定的に働くものといえますので、その再開により、ウラン市況の低迷は深まると捉えられるべき記事内容と言えます。

 

(中堅ウラン鉱山会社の苦境)

また掲載記事には、ランガー・ヘィンリッチ(鉱山)プロジェクトと「パラディン・エナジー社」の動向が伝えられておりますが、ランガー・ヘィンリッチ(鉱山)プロジェクトは、西アフリカ ナミビアにおける世界有数のウラン開発プロジェクトであり、その開発会社側の主体者は、オーストラリアの「パラディン・エナジー社」がつとめています。

「パラディン・エナジー社」は、1993年に設立されたパースに本社を置くオーストラリアのウラン鉱山会社ですが、オーストラリアでは長年ウランの探鉱等は認めるが採掘は、環境破壊等をもたらすとして認めないという政策を採る州があり、このため同社は、経営戦略としてオーストラリアの会社でありながら、アフリカの鉱山特にランガー・ヘィンリッチ(鉱山)プロジェクトをその基幹鉱山として、経営を行うという戦略を採ってきており、掲載記事にあるジョン・ボーショフ氏は、同社の設立初期より経営に携わってきたCEOです。

 

(この事実の意味すること)

「パラディン・エナジー社」が,実は、会社そのものとも言っても過言ではないランガー・

ヘィンリッチ(鉱山)プロジェクトの権益を売りに出しているという事実は、世界のウラン鉱山会社の中堅クラスがウランの市況の低迷の長期化により、経営上大リストラを敢行しなくてはいけなくなるという危機的状況にまで追い込まれてきたことを如実に表す事実と言え、脱原発を志向する立場においては、この反動に対する警戒を今後一層高めなくてはいけない事実と思われます。すなわち、この掲載記事が伝えるようにウラン市況の低迷が供給過剰によるものであっても、川上のウラン鉱山会社においては、これ以上供給を絞りウラン価額の低落を避け、またコストの増大を回避する経営方針を採ることは、自社の生存にかかわるものともなりかねないものとなっているものと言え、今後は川下の需要を伸ばしてもらう以外には、自らの生存は、生産を続ける限り、企業努力では成り立たない事態になってきていると評価出来ましょう。この観点で、現在の自民党の主張、すなわち、日本における原子力発電所の再稼働を認めていくだけではなく、積極的に原子力発電所の輸出も進めていくとする党是は、まさに世界におけるウラン需要を伸ばすためのものそのものとなっていることに我々は注目しておかなければならないと言えましょう。

 

(最大の責任者)

福島第1原発事故の原因の解明がなされていないに等しいという事実、福島第1原発の事故はいくら政府が取りつくろうとしても、全く収束していないという事実、今後住民の健康被害を含め、どれほどの後年的被害が顕在化するか未知数であると言う事実、こういった事実がありながら、全くおざなりの安全基準をもって将来的に大規模地震の発生がまず確実視されている国において、原子力発電所の再稼働を認めていこうとする為政者が、国の首班として再度選ばれていこうとされているという昨今の事実は、仮にそうなった場合、国家の永続性という面よりも、目先の経済的利益を最優先するシナリオを日本国民が選択したのだと言う評価を我々は確実に後世の歴史家より、受けることとなるものといえましょう。

もっとも今回の参議院議員選挙は、その為政者が党首をつとめる党が、得票数を伸ばすという形での勝利ではなく、低投票率による基礎票の効果により、勝利すると言う6月に行われた東京都議選同様の結果になりそうなものなのであり、この点から見ると、歴史に対して責任を負うべき者は、投票に行かずに棄票した者こそが、最大の責任者と言えるのではないかと言う観点を当会としては否定ができないものなのです。

 

(歴史感覚の無さと亡国への道程)

かつて山本七平氏は、日本人は歴史好きであるが、歴史感覚が無いという主張を述べられていました。自らが置かれている立場の歴史上の意味、後世からどのように評価されるかという観点を多くの国民が持っていないということです。今回の参議院議員選挙は、この後3年に亘り国政選挙が無いと言う点から見ても、まさに日本の歴史を決める極めて重大な歴史的な選挙と言って良いものといえましょう。

来るべき参議院議員選挙の投票率が、山本七平氏の日本人評の正しさを裏付けるものとならないこと、そして日本の破滅への序曲にならないことを当会としては、ただただ今は祈るのみです。

 

(平成25年7月17日事務局記)